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ほこぼこり
拙い創作物を垂れ流す場所。 一次、または二次などを書いていこうと思う。
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    リトルバスターズSSです。 
    恭介の思い付きから、メンバーは缶蹴りに興ずることになる。







    「さあ理樹! 準備しろ!!」
    「……唐突だね。藪から棒になに?」

    ある晴れた昼下がり。
    午前の授業を消化し、昼食を食べるために食堂へ行こうと腰を上げたその時。――有り得ない場所より声が響き渡る。
    我らがリーダー恭介だ。上階だというのに、窓の縁に足を引っ掛けての登場である。
    ――毎度のことながら、何故に窓から侵入するのかと思う。まあ、近くて楽なんだろうけど。何より恭介がやると絵にもなる。

    「空を見ろ。どうだ?」
    「うん。空が見えるね」

    再び腰を下ろし、恭介へ向き直る。
    よく分からない問いかけにも応えはしたが、どうやら満足のいく回答ではなかったようだ。
    恭介はかぶりを振った。 

    「そんなことは当たり前だ。俺が言いたいのはだ……今日が絶好の娯楽日和ということだろうがっ」

    ――あぁ、成る程。恭介が新たな催しごとを考えついたのだろう。
    確かに今日は抜ける様な晴天だ。
    課外行事でもするのかな?

    「それで、今日は何を思いついたの?」

    幼少の時からそうだった。
    恭介は突発的に何らかのことを閃いては、僕達幼馴染を引っ張りまわしていたのだ。
    遊びに誘うときの恭介の顔は、何時だって期待と冒険心にキラキラと輝いていた。
    それは年を重ねても色褪せることなく、童心を未だ忘れない恭介は何時でも楽しそうに笑っている。
    そんな彼は、誰もが認める僕達のリーダーだった。
    僕は新たな娯楽に内心胸を弾ませながら、勿体振って頷く恭介の返答を待つ。

    「ふふん。今回は中々ハードだぜ」

    恭介は窓際から飛び降り、懐からある物を取り出した。
    カンと、小気味いい音を響かせて僕の机にそれが置かれる。

    「……缶?」
    「缶だ!」

    ――缶……缶か。何の変哲も無い白い缶だ。
    一瞬ゴミ拾いでもするのかと思ったけど、遊びに来たようだからそれはないだろう。
    なら、缶で遊ぶ一般的な遊びといえば――

    「もしかして……」
    「ああ! 本日リトルバスターズで――」

    置いた缶を再び掴み上げ、声高に宣言する。

    「大合戦!? 空き缶求めて何千里? 缶蹴り大会だあああ!!」








リトルバスターズSS

 缶蹴れ!! 前編








    「へぇ……。缶蹴りとはまた懐かしいね」
    「……まぁな。小学校以来ってトコだ」

    恭介が言うように、缶蹴りなんて何年振りだろうか。
    だけど、恭介が考えるゲームだ。普通じゃないんだろうなぁ……。
    昔は転げ回りながら日が落ちるまで遊んだけれど、今回はどういったルールが付加されるのやら。 
    意味が解らないフレーズはともかく、楽しみではある。

    「ところで恭介。皆には伝えてるの?」
    「勿論だ。メールは既に送信済み、お前らが昼食を終えたら開始と行こうじゃないか」

    流石に手回しはいい。
    教室にいるであろうメンバーへと視線を向けると、小毬さんとクドが一生懸命弁当箱と格闘していた。

    「うわぁぁん……! 恭介さんもう来てるよぉ……」
    「わふー! 早弁は苦手ですっ」

    四苦八苦する二人の様子に苦笑しながら、次のメンバーへと目を向ける。
    ……西園さんはどうやら既に終えているようだ。優雅に読書などをしていた。――速い。
    まあ、あの西園さんが食事を猛然と掻き込む様子を他人に易々と見せるはずもないだろうから、昼食は軽く摘んだ程度なのだろう。
    寧ろ食べていないのだろうか?
    そんな僕の視線に気付いたのか、西園さんは一度顔を上げる。
    何か? という意味合いの視線を向けてきたため、首を横へ軽く振っておいた。
    再び読書へと戻った彼女を尻目に、残りのメンバーを探す。

    「あれ? 謙吾と鈴……来ヶ谷さんもいないね」

    教室を見渡しても、この三人の姿が見えない。恭介へと視線で問い掛けた。

    「謙吾は購買、鈴は大方猫の所だろ。来ヶ谷は……まぁ放っといても勝手に現れるだろう」

    ――確かに。来ヶ谷さん神出鬼没だし、楽しいそうなイベントを見過ごすはずもない。
    謙吾や鈴に至っても、メールで伝えているのならよっぽどのことが無い限り参加するだろうし。
    後は――

    「――真人……真人。もうお昼だよ、起きなよ」

    何時もなら相手にしていなくても擦り寄ってくる筈の真人は、現在絶賛爆睡中のために静かであった。いや、いびきは非常に五月蝿いわけだけど。
    筋骨隆々の広い肩を一生懸命揺らしても、微塵も起きる気配がない。
    ……そういえば、真人が早朝言っていた気がする。

    『おい理樹、知ってるか? 睡眠には筋肉を発達させる重要な働きがあるんだぜ!』
    『そうなの?』
    『そうだ! 原理は知らんが、睡眠中は普段大人しい俺の筋肉細胞達が活発化してな、盛んに栄養素を取り込むんだとよ。成長ホルモンってやつだな。
    しかもだ。それは夜に限らず昼間にも作用する。言いたいことは分かるな? 昼寝でも可能って訳だ!!』
    『へぇ……。何処で覚えたのか知らないけど、筋肉に関しては後れはないね』
    『おうよ! 実際何処ぞのスポーツ先進国では、早朝より昼間に掛けてトレーニングし、昼食を取っては昼寝をするわけだ。んで、睡眠を取った後に更にトレーニング。
    ……たまらねぇ。これぞまさしく一石二鳥……待てよ?』
    『どうしたの?』
    『いや、理樹よ。俺は今恐ろしいことを思いついてしまったぞ……。ドラ○もん、知ってるだろ?』
    『うん』
    『それに登場するメガネ、奴は三度のメシより昼寝が好きなわけだが、今の論理でいくとヤバくね?』
    『…………』
    『こう考えるんだ。常に苛められていたメガネは、決して泣き寝入りをしていた訳ではなくて、実は日頃より昼寝をすることにより力を蓄えていたんだよ。
    ガキの頃からずっとだぜ? 間違いない……奴は復讐を誓っていた! 何時かデブと骨を亡き者にするために、着々とだ。
    おいおい……俺は何てことに気付いてしまったんだ。そんな頃からスリープエクササイザー……あ、俺が今命名したんだ、格好いいだろう?
    そのスリープエクササイザーを今の俺ぐらいまで実践したメガネは、ぶっちゃけ空前絶後の肉体美を獲得している筈だ。あまつさえ、七星拳の極意を一つや二つ会得してるんじゃ……?
    いや待て!! だとすれば数十年先に待つ未来は阿鼻叫喚な殺戮の――』

    とまあ、何か一人で二次元作品の未来を憂いたわけだけど、例の方法を試しているのは確かなのだろう。
    でも真人……。初っ端から寝るのは何か違くないかな?
    ともかく、全員が揃うまで寝させてあげよう。……起こす僕のほうが体力使いそうだしね。
    後は自分の昼食を軽く取るため――

    「――ちょーーーと待ったあああっ!! 理樹くん理樹くんどうしてモノローグではるちんのこと無視するのかな!」
    「い、いや……。葉留佳さんは呼ばなくても来るし……」
    「ひどいやひどいや! 繊細な女の子を蔑ろにする理樹くんなんてオタンコナス!!」

    猛然と駆け寄ってきたのは、学年では唯一別クラスの葉留佳さんだ。
    早速脈絡の無さを発揮する彼女は、僕に言うだけ言って即座に身を翻して再び駆け出した。
    僕に対する身に覚えの無い罵声と、わふーという鳴き声が同時に響く。……葉留佳さんがクドに泣き付いていた。もとい、クドを締め上げながらつらつらと愚痴っていた。
    葉留佳さんに邪魔されたとあっては、ただでさえ遅い食事スピードが更に滞ること間違い無しだ。――クドへ合掌。

    昼休み一杯を使って遊ぶとあれば、僕も今日は購買でパンでも買おうかな。
    我が物顔で教室に居座る恭介へと向き直る。

    「恭介。僕は購買行くけどどうする?」
    「いや、謙吾が俺達の分も買って来てくれる筈だ」
    「そういうことだ。そら、理樹の分だ」

    何時の間に戻って来たのか、振り返れば数個のパンを抱えた謙吾の姿。僕へと向かって、パンを二つほど投げて寄越す。

    「っとと……ありがと謙吾」
    「なに、構わん。恭介は……これでよかったな」
    「おぉ! 流石は謙吾。伝説のゴーヤチャンプルサンド括弧ソース仕立てを見事ゲットしてくるとはな」
    「寧ろ、誰も触れ様とはしなかったがな……」
    「そんなの食べるんだ恭介……」
    「まあな。誰もが食すことを控えたこのサンド、俺が攻略してやるよ」

    興味本位で手当たり次第に行動するのは、果たして呆れるべきか、感嘆すべきか。後先は考えてるはずなんだけどなぁ……
    僕が抱えた二つのパンは、メロンパンとコロッケパン。無難なチョイスで一安心だ。
    代金を謙吾に渡し、早速自分も昼食に取り掛かる。僕も皆が集まる前に、早いところ食べてしまおう。
    謙吾も自分の席に戻り、恭介は……あ、固まってる。……やはり不味いのか。

    さて、食事を手早く済ませて手持ち無沙汰になった。たった二つのパンだ、数分あれば充分だし。
    皆の様子を確かめようと立ち上がるが、近くの空席で何やら弄り回している恭介を発見する。歩み寄って覗き込んでみた。

    「それ、なんの機械?」
    「ゲームを一際熱くさせる代物さ」
    「ふ~ん……。位置を知らせる発信機とか?」
    「……よく分かったな」

    何気なく喉から出た言葉だった。無骨な無線機のような機器は、如何してか僕の記憶に引っ掛かる。既視感というやつだろうか?
    そんな僕の言葉にも、恭介は嬉しそうに頬を緩めていた。……覚えてないけど、もしかして“前”にやったのかな?

    「ともかく、それを使ってゲームをする訳だ」
    「まぁな。……鬼と逃げ手の思惑が複雑に絡み合う、ドキドキハラハラのゲームになること請負だ!」
    「それはいい。好き勝手女の子達を追い掛け回しても、建前上許されるのだからな」
    「く、来ヶ谷さん……。いきなり背後に立たないでよ」
    「はっはっは。まだまだ精進が足りないな少年」

    来ヶ谷さんの登場は、何時ものことながら心臓に悪い。彼女は僕の反応を楽しんでいる節があるから、こちらが慣らされるまで続けそうだ。
    正面にいた筈の恭介は気付いていたはずなのに、敢えて僕に知らせなかったのか。……今更だけど、二人とも人が悪い。
    はっはと愉快そうに笑いながら僕の背中を叩く来ヶ谷さんを皮切りに、昼食を終えたメンバーも続々と傍に寄ってくる。

    「おい恭介。何をするんだ?」
    「来たな鈴。それはこれから説明する。……よし、これで全員揃ったな」

    最後に鈴が教室に現れて、計十名のグループ――リトルバスターズが勢揃いした。
    心なし姿勢を整えた恭介が一度咳払いをし、皆の顔を見渡して一言。

    「ゲームをする」
    「だから、何をするんだ?」

    先程、恭介が種目については叫んで宣言していたため、この教室にいたメンバーには最早説明するまでも無いだろう。
    唯一知らされていない鈴が、あたしは今忙しいのだという雰囲気を醸し出しながら再度問い掛ける。
    そんな鈴の質問に答える形で、恭介は紙が巻かれた長細い筒を二本取り出した。……何時もの奴だ、てかもう一回言うんだ。

    「おい理樹。片方よろしく」

    差し出された一方を掴み、二人揃って勢い良く腕を振る。
    ばっと、巻物状のものが大きく広がった。

    「大合戦!? 空き缶求めて何千里? 缶蹴り合戦だあああ!! はい拍手!」
    「待ってましたああ!!」

    ぱらぱらと遠慮がちに上がる拍手を掻き消すような野太い声。……謙吾。キミって時たまスイッチ入るよね……。
    起伏の激しい僕達のテンションでも満足そうな恭介は、持っている筒を回収して隅に投げる。

    「というわけだ諸君。鈴もいいな?」
    「くだらない。あたしはもう行くぞ」

    鼻を一度鳴らし、身を翻す。猫の所に戻るのだろうか。
    ……あ、一つ思い至った。鈴より以前から聞き及んでいた新型モンペチの発売日が今日だ。昼休みを使って購入する見積もりだったのだろう。
    優先順位が恭介より高そうな猫達の世話が控えているのだから、止む無しに不参加というのも頷ける。 
    だが、鈴の反抗も既に想定済みなのか、恭介は小毬へと目配せする。――引き止めろということだろうか。
    敢えて恭介に言われるまでも無かったのだろう、彼女は鈴へと声を掛ける。

    「りんちゃん。やっぱり皆いっしょだと楽しいよぉ~」
    「む。小毬ちゃんは参加するのか?」
    「勿論ですよ。でも、用事があるなら仕方ないね……」
    「うぅ……。さ、参加するに決まってる!」

    ――あ、落ちた。
    小毬さんの沈んだ顔が耐え切れなかったのか、鈴は何とかモンペチの誘惑を振り切ったようだ。
    当の小毬さんは嬉しさ余って、鈴の手を取りその場で回りだした。恥かしさに顔を高潮させた鈴だが、逃げないだけ成長したということかな。

    「らんらんら~ん♪」
    「流石の鈴も小毬さんには形無しだね」
    「コマリマックス……したたかな娘だ」
    「い、いいから、たすけて……」

    僕と来ヶ谷さんでしみじみと頷きながら、消え入りそうな声で助けを求める鈴のために、優しく小毬さんを引き剥がす。
    名残惜しそうな小毬さんに苦笑しながら、へたり込んだ鈴を引っ張り起こした。
    羞恥に震えていた鈴だけど、持て余した感情が関係のない障害へ向けて爆発する。

    「お前もいつまで寝てるんじゃボケーーー!!」
    「ぐぶえ!?」
    「うわ! 真人!?」

    鈴のハイキックが炸裂。真人が吹っ飛んだ。……しまった、真人を起こすの忘れてた。
    吹き飛ぶ真人の進行方向にいた謙吾や西園さんらは軽やかに回避する。う、受け止めてあげようよ……。いや、眼前にあの巨漢が迫ってきたら僕でも避けるけどさ。
    ゴロゴロと転げまわるも、彼は即座に立ち上がって目を剥いた。

    「コラああっ!! 人が気持ちよく眠ってたのによ! いきなり吹き飛ばすとはどういう了見だおらあ! 人が気持ちよく眠っていたのによ!!」
    「こいつ二回言ったぞ」
    「それだけ強調したかったんだよ。察してあげなよ鈴……」
    「どうでもいいな」
    「よくねェ!!」

    原因は言わずとも分かっているのか、鈴へと凄みのある睨みを利かし、屈強な双肩を揺らしながら迫る。

    「謝罪と弁護は聞く。だがな、事と次第によっちゃあ……テメェの猫達をバリカンでスフィンクスにしてやるぜ」
    「イヤじゃ!」
    「なんの!」

    真人は繰り出される回し蹴りを上腕で受け止め、攻勢に出ようとする。が、それ以上に速い鈴は軽快なステップで距離を取る。
    両者共に舌打ちしながら距離を計るも、恭介が間に入ることで緊迫した雰囲気は霧散した。 

    「待てお前ら。さっきから話が進まんだろうが」
    「だってよぉ……」
    「だっても時間もないんだよ。決着は昼休みを全開に使った此度のゲームで付けろ。鈴もいいな?」
    「仕方が無い。受けて立ってやる」
    「元はと言えばテメェのオーバーアクションが原因だろうが。なんで上から目線なんだよ……」

    真人は愚痴愚痴と不貞腐れてはいたけれど、ゲームで白黒つけること自体は概ね賛成のようだ。
    だけど、彼はある言葉を聞いて訝しげに顔を傾げ、恭介へと問い掛ける。

    「ちょっと待とうか……昼休み?」
    「だから水を指すなといっているだろう。で、昼休みがどうかしたのか?」
    「あれ……もう昼休み?」
    「もう昼休みだ」
    「え、メシは?」
    「え、ないよ」

    真人は一瞬黙り、次いで謙吾を見据えた。救いを求める、哀願の瞳だ。
    謙吾は目を細め、無情にも口を開いた。

    「昼食のカツサンドは美味であった。お前のはない」
    「ノオオオオオォ!!」

    崩れ落ちた真人だが、若干八つ当たり気味に残りのメンバーに当り散らす。

    「どぉして起こしてくれなかったんだよ!?」

    同情を誘う哀れな真人の姿に、皆は一瞬顔を見合わせる。

    「それこそどうでもいい」
    「すまんな真人少年。素で気付かなかったよ」
    「自分で起きたらどうですか?」
    「な~んだ、昼休みになっても机に齧り付いてたから私はてっきり陸上どざえもんごっこしてるのかと思っちゃったよ~」
    「こ、こいつら……」

    不憫すぎるよ真人……。
    でも、あんまりな言い草の四人とは対照的に、小毬さんとクドの二人は酷く申し訳なさそうに首を垂らす。

    「ごめんね真人君……。私、自分のお昼ご飯を食べ切るのに精一杯で……」
    「うう……。井ノ原さんのお力添えになれなくて申し訳ないです……」
    「あ、いや。その……気にすんなよ」

    萎縮した二人の様子に、今度は真人が目に見えてうろたえる。真人からしたら、先の四人の反応の方が慣れっこだしね。
    傍から見れば少女二人を困らせているようにしか見えない。そうなると、逆に居心地が悪くなった真人へ向かって鈴が動くのも何時もの光景。

    「小毬ちゃんとクドをいじめるなあーーーっ!!」
    「ちょぎっ!?」
    「よし。じゃあルールの説明だ」

    最早二人を見限ったのか、恭介が前に出て説明を始める。
    一先ず、僕も転げ回っていた真人を助け起こして説明に耳を傾けた。

    「ルールは従来の缶蹴りと変わらない。制限時間内に一人でも鬼から逃げ切れば勝ちだ。当然、鬼にタッチされれば捕縛される。
    捕らえられた仲間を救いたければ缶を蹴る。ここまでは分かるな? 違う点は、これだ」

    先程僕に見せてくれた機器を、今度は皆に見えるように高く掲げた。

    「これは一種の無線機だ。鬼にはこの送信機を持って参加してもらう。そうでないものは、こちらの小型受信機だ。
    絶えず信号を発する鬼の送信機を受信機が捉えると、受信機が音を発する」

    恭介は実際にスイッチを入れて装置の有効性を示す。赤いランプが点灯し、ピピピピという音が教室内を響かせた。――発信音は意外と大きい。
    機械同士の間隔によって音量が上下するようだ。  

    「有効範囲は数十メートル程度。鳴れば周囲に敵がいるという訳だ」
    「登山客やカーナビにも使われているビーコンという奴ですネ」
    「おぉ……葉留佳さん物知りです!」
    「うぃきぺでぃあを味方につけたはるちんに敵はないのだ!」

    盛り上がるクドと葉留佳さんを他所に、おずおずと西園さんが手を上げる。

    「なんだね西園君?」
    「戦略的にセンサーの電源を落とすのは勿論有りですよね?」
    「無論、無しだ」

    ――それはそうだよ西園さん……。彼女の残念そうな顔を見て、こっちが居た堪れなくなるのは何故だろうか。
    とりあえず、ルールの説明には納得した。他の皆も異論はないようだ。

    「後は鬼だね。恭介、どうやって決めるの?」
    「基本くじ引だが、我こそはと強く熱望する者はいるか?」

    速攻で挙手が上がる。……だろうと思ったよ、来ヶ谷さん。

    「はい来ヶ谷決定。他は――」
    「はいはーい! 私も姉御と鬼やりまーす!」
    「二人目三枝。では、俺も最初は鬼をやる。これで三人目だ」

    着々と決まってるなぁ……。何故か定着したくじ作りという作業を今回はやらなくてすみそうだ。
    するとこれで鬼は三人か。……少し厳しいかな?
    それは恭介も思っていたのか、ふむと顎に手を当て一瞬考える。次いで、何故かこちらへ視線を向けた。

    「理樹……いいよな?」

    ……そんな期待に満ち溢れるキラキラした目で言わないでよ。断れないじゃないか。
    一つ溜息を落とし、仕方無しに頷いた。
    よっしゃと恭介は僕を引き寄せ、鬼とそうでないものとを分別させる。

    「決まりだ。鬼は俺達四人、お前らは六人だ。これでいいな?」
    「ちっ。理樹を捕られたのは痛手だぜ。恭介、謙吾っちとトレードしようぜ!」
    「トレード賛成だぞ真人。こちらの筋肉と理樹とを交換だ」
    「コイツら馬鹿二人やるから、理樹を寄越せ!」
    「どれも却下だ」

    いや、真人に謙吾……そんなに執着されても困るんだけど。それに鈴も、恭介真人謙吾が揃えば最強にも程があるよ。

    「モテモテだな理樹君」

    来ヶ谷さんが悪戯っぽい笑みを浮かべて僕の脇を小突く。か、勘弁してよ……。 
    あと西園さん、その妖しい視線はやめてください。
    思い思いに騒いでいた皆へ向かって、恭介は一拍叩いて黙らせる。

    「それじゃ始めるぞ。俺達鬼はお前らが教室を出た一分後に、缶を何処かに配置する。
    準備が整ったら全員にメールを送信。それが開始の合図だ」

    それぞれに機械を持たせ、六人に出て行くよう促す。

    「へっ。上腕二頭筋が鳴るぜ!」
    「そんなトコ鳴るか馬鹿」
    「触れてやるな鈴。誤った知識にその筋肉を捩じらせて身悶えながら、いずれは恥をかくのだからな」
    「聞こえてんだよ!」

    何時ものように騒がしく出て行く幼馴染陣営。
    というより真人と鈴……同じチームじゃ白黒付けられないよね。……まぁ、もう原因なんて覚えちゃいないと思うけど。

    「ようしっ。がんばるよ~」
    「どぅ~まい、べすつっ。頑張るです!」
    「……頑張ってください」
    「みおちゃんもだよ~」
    「ですっ」

    和気藹々と鈴達を追う個性的な三人。その面子で大丈夫なのだろうか……。
    恭介は六人が教室より退室したのを確認した後、作戦を練るため僕達に向き直る。

    「さて、まずは缶の設置場所だ。いい案はあるか?」
    「やっぱりあれですか? 袋小路的な密閉空間は禁止?」
    「侵入経路が一つしかないのは面白みに掛けるからな。それは無しにしよう」
    「ちぇー。女子トイレに設置したら真人くんも謙吾くんも手出しできないのに」

    そ、それはえげつないよ葉留佳さん……。僕と恭介だって守りに入れないじゃないか。
    しかし、よくよく考えれば僕達鬼チームも一癖も二癖もあるな……。
    何でもそつなくこなす万能の恭介に、何を仕出かすか分からない突拍子の無い葉留佳さん。更にあらゆる意味で規格外の来ヶ谷さんといったメンバーに比べると、どうしても僕は見劣りするな。
    頑張って足を引っ張らないようにしないとね。
    決意を新たに固め、皆が設置場所に頭を悩ませていた時、沈黙を保っていた来ヶ谷さんが発言する。

    「ふむ。ならば、あそこならどうだろうか?」

    耳寄せする全員に囁くべく、来ヶ谷さんが口許を寄せる。……女の子の接近に、少し緊張した。 
    彼女が発した提案は、先の恭介の発言に抵触しない場所であった。一応を付けざるを得ないけど。
    全員で一考した後、満場一致で頷いた。

    「よし。じゃあそこだ。設置は任せるぞ」
    「任された」
    「流っ石! 私の意見もちゃんと汲み取ってくれる辺り、姉御は偉い!」
    「はは……大丈夫かなぁ」

    まあ、僕が心配する程彼女達はヤワじゃないけど。
    皆が出て行ってから凡そ一分。恭介は教室の掛け時計を見やり、改めて三人に向き直る。

    「では――」

    恭介は拳を突き出した。苦笑しながら、僕たちもそれに倣う。

    「敵は六人。一人残らず一網打尽だ。……行くぞ!」
    「うん」
    「うむ」
    「了解っす!」

    コツンと、拳を打ち鳴らす。
    僕達の――開戦の狼煙であった。
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